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東京女子医大・伊関教授、臨床の立場から見た医療機器規制のあり方:MEDTECセミナーを前に

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東京女子医科大学伊関洋教授は、従来の発想と異なる手法で医療機器の研究開発成果を臨床現場に届けるために尽力されておられます。スピードとイノベーションを重視し、医療機器のレギュラトリーサイエンスを構築すべることで、医療の現場に根ざした研究開発の後押しされています。

その伊関洋教授が、「MEDTEC Japan2012」のセミナーで臨床現場におられるお立場から「日本の医療機器規制はどうあるべきか」について講演されます。セミナー(4月19日、木曜、午後13:30-14:20)を直前に控え、色々とご意見を伺いました。


1.今回のセミナーでは医療機器の「イノベーション」と「法規制」が2大テーマとなっていいます。今後、日本発の「革新的医療機器」の開発・改良には何が最も重要とお考えですか?
伊関教授: 新規医療機器の開発及び普及(医療現場への導入)には、臨床研究・治験を経た薬事承認が必須です。

研究者は、新規医療機器の開発と同時に、その評価法の開発をすすめる必要があります。有効性・安全性の評価は、電気的・機械的安全性などIEC規格で確立しているものについては、その規格を適用することで、評価できます。しかし、開発した新規医療機器の性能・安全性などについては、開発者自身が評価方法を創造していかなければならない宿命を背負っています。

製造販売業の許可要件としての三役(総括製造販売責任者、品質保証責任者、安全管理責任者)の設置がもとめられていますが、この要件が中小企業にとっては大きなハードルと成っています。したがって、この要件の緩和が必要と考えています。

2.TWInsのイニシアチブで「医療機器レギュラトリーサイエンス」の概念が定着しつつあります。臨床現場から先生が望まれる理想の「レギュラトリーサイエンス」の専門家とはどういった人材でしょうか?
伊関教授:以下のことをマネージできる人材です。
レギュラトリーサイエンスは、社会との折り合いをどのようにつけるかという社会科学的側面を持っています。また、実用化と普及のために必要となる、有効性と安全性と品質を評価するための科学的手法であり、リスクベネフィットバランスと社会的要請から行う総合判断の基盤となるものです。

新規医療技術には未知の危険が存在します。未知の危険については、厚生労働省も専門家も判断できません。医療行為や新規医療技術には、このような根本的問題があることを社会は認めるべきです。そして、その社会的合意には、技術的にも医学的にも想定できるリスクに対する合理的な対策を立てる必要があります。

それでは、合理的な対策とは何か?答えは、リスクとベネフィットのバランス(レギュラトリーサイエンス)だと世界的には考えています。現在の法体系ならびに社会の対応(報道も含めて)を考えると、未知のリスクをどのような形で受容するかのコンセンサスができていないのが現状です。

ここで、未知のリスクとは導入段階で、専門家の誰もが予想できなかったような未知のリスクのことを示しています。技術的に、導入時点で想定されるリスクに対して、適切なコスト・ベネフィット分析の結果で・・許容された対策を行っていたとしても、いったん事故が起ると、社会的制裁があり、場合によっては刑事責任まで負う形になってしまいます。

これでは新しい未知の技術に対する制約が大きくなるばかりです。現在、新規医療機器開発にブレーキがかかっている状況は当然の帰結です。したがって制度的な問題だけではなく、リスクをどのように受け止めるか、またハザードが起きた場合に社会がどのように対応するかを真剣に考える必要があります。犯人探しではなく、対策をどのようにとって技術開発を継続するかについての検討が必須と考えます。

3.日本の企業が国際競争力をつけるという意味でも,医療機器の産業を発展させていくという観点からも,我が国の薬事承認の迅速化も課題となっています。これについてはどのようにお考えですか。
伊関教授:現在の薬中心の薬事法ではなく、医療機器特有の制度設計(医療機器法など)が必要です。
医療機器は薬と違う!という認識を持つことが大切です。医療機器(医薬品と比較して)は、短いLife cycleで、少量多品種であり、改良に次ぐ改良によって製品化をすすめなければなりません。その特徴を考えると、治験の途中で改良することを認めるような制度とすべきです。

そのような制度設計が実現すれば、医療機器開発は大きく加速する事になります。治験プロセスが医薬品ほど確立していない(薬はI相・II 相・III相と明確)現実があります。特に、術者の使用経験の違いが、薬と異なり治験結果に影響します。Learning curveがあり、トレーニングコースが必要な点も、薬と大きく異なる点です。特に、術者が介在するため、ブラインド研究は不可能です。

4.現在、日本の医療機器業界が抱える一番の課題は何だとお考えですか?
伊関教授:新規医療機器開発・評価系の開発・特許開発の意思決定でしょう。イノベーション創出には、予測・度胸(リスクテーキング)が必要です。開発する医療機器のゴールのイメージが重要です。新規医療機器開発のゴールは、 医療現場で使われている状況をイメージし、提示します。評価系のゴールは、安全性・有効性を示す評価法提示します。特許開発は、技術を先読みし、知財スタッフ・研究者間で常時意思疎通し、目的を達成できる特許に仕上げる必要があります。

結果として市場支配に必要な特許と標準化に繋がることになるのです。また、節目節目の段階で、技術動向、市場調査、特許調査を考慮して、意思決定(決断)をすることになります。

5. 政府の成長戦略の要として革新的医療機器への開発推進は進んでいくでしょうか?
伊関教授:開発を推進しなければ、日本の医療(治療)は海外の機器・システムの依存となり、有事の際には日本の医療は根本的に崩壊する危機にあります。又、年間8千億円に達する医療機器の入超を是正することが必要です。

6.早いもので東日本大震災から1年が経ってしまいました。今後の日本の医療機器業界はどうなっていくとお考えでしょうか?
伊関教授:日本の市場は、年々縮小していく状況であり、アジアを見据えた市場展開をしなければ、医療機器産業は生き残れません。制度的にも後押しが必要です。

 

伊関教授は、会議二日目(4月19日木曜日)の午後1330分〜1420に、「日本の医療機器規制はどうあるべきか/臨床の立場から」と題した講演をされます。

副題は「もう一つのEBM(Engineering based Medicine)と医療機器レギュラトリーサイエンスが果たすべき役割」です。新規医療技術には未知の危険が存在しますが、その未知の危険を、厚生労働省も専門家も判断できません。実用化と普及のために必要となる、有効性と安全性と品質を評価し、リスクベネフィットバランスから行う総合判断の必要性についてご講演される予定です。


伊関

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 教授(医学博士)。

1974年東大(医)卒業。2006年、東京女子医大先端生命研教授。2010年、同(東京女子医科大学・早稲田大学共同大学院)教授。2008年、TWIns(女子医大・早稲田融合拠点)を開設。診断即治療、切らない外科(光線力学療法、音響化学療法)、精密手術、手術戦略デスク、インテ リジェント手術室など、外科医の新しい手・目・脳というコンセプトで医工連携の基に産学協同で医療の現場に根ざした研究開発をスピード重視で行っておられます。 

 

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